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006.官能小説用語

春菜と健太郎
春菜と健太郎

 春菜が言った。「陽根、異形の肉、男の武器、回転ドリル、王様、お刺身、タフボーイ……

 全裸にされ、仰向けに寝かされた健太郎は喘ぎながら言った。「ル、ルナ、なんだよ、そ、それ……」

「この男性器を言い表す言葉なんだって。いろんな官能小説に書かれてたものを集めた本があってね、それにいっぱい書いてあったんだよ。まだまだあるよ。イギリス製の鉄兜、形状記憶合金、凶暴な肉器官、茎の長いマッシュルーム、毛のはえた拳銃、削岩機、赤銅色に反りかえった威容、成熟したマツタケ型の器官、肉ホース、もう一人のあなたさま……これってなかなか良くない?『あなたさま』なんて」

「そ、そんなことより、俺、も、もうイきそうなんだけど……」健太郎はさらに呼吸を荒くし始めた。「ル、ルナっ……」

「出すの? ケン。いいよ。遠慮しなくても」春菜はそう言いながら左手の人差し指で健太郎の『もう一人のあなたさま』の先端をくりくりと刺激し始めた。

「ああっ、ルナ、ルナっ! だめだっ! ぐううっ!」

 びゅるるっ!健太郎の精液が噴き出し始めた。

「わあ! 出てきた! この液のことはね、ザーメン、スペルマ、カルピス、ミルク、ケフィア……」

「うあああっ!」健太郎は仰け反りその液を何度も発射させた。春菜は面白そうにそれをぬるぬると健太郎の身体に塗りつけて遊び始めた。

「ルナっ、君の後ろに矢印形のしっぽが見えるんだけど、それって……」

 小説を書く、ということは、言葉で第三者にいろんなことを伝える、ということです。アダルト小説の場合は、当然セックスや性器などを表す言葉を使わないわけにはいきません。僕は小心者でどちらかというと遠回しに表現したいタイプなので、直接的で卑俗な言葉を使いたくありません。まあ、何をもって『卑俗』なのかは、個々人の捉え方次第だということはわかってますけど、例えば男性器を『チ○ポ』などと表現したりはしません。『ペニス』『分身』『ジュニア』どまりです。どこがどう違うんだ、と突っ込まれそうですが、僕の中ではこっちがより上品なんです。それに、僕の小説の中で、女性が男性器を表す言葉を口に出すことはほとんどありません。あっても『それ』『これ』ぐらいです。

 

 その世界には「淫語責め」というカテゴリがあります。敢えていやらしい言葉を女性に言わせる、というやつですね。僕はちょっとニガテです。でもそういうシチュエーションが好きだという男性諸氏がいるからちゃんとカテゴリとして存在しているのでしょうね。

 セックス、つまり性行為もいろんな言い換えが可能です。

 

 枕を交わす、情を交わす、肌を合わせる、体を重ねる、抱く、やる、する、知る、春、まぐわう、寝る、愛し合う、make love、朝を迎える、夜を越える、ホテルに行く、C、エッチする、ファック、交尾、本番、セックル、セクース、セクロス、ギシギシアンアン・・・。

 しかし、セックスすることを言い表す時にこれらの言葉のどれでも使えるか、というと、そうではありませんよね。自ずと前後の流れや当事者の性格、その場の雰囲気などで使える言葉は限られて当たり前です。例えば「ファック(fuck)」という言葉は英語圏ではかなり攻撃的で下品な言葉です。一方「知る」とは聖書の創世記で使われるアダムとイブの愛し合いの表現。そう、『愛し合った』という表現でセックスを言い表すことも、僕は比較的多いです。レイプや愛のないセックスを表現するのなら、「本番」とか「やる」でもいいんでしょうけど、基本的に両者の合意があって行われる行為である以上はやっぱり「肌を合わせる」とか「朝を迎える」の方がいいなあ。

 

参考文献:官能小説用語表現辞典 (ちくま文庫) [文庫] 永田 守弘 著

 

2013,3,10 Simpson